【貧血・低フェリチン】栄養療法における鉄サプリメントの注意点

鉄サプリメントについて

「Hgbが一桁なの」とか、「フェリチンが1でした」とか、
ここのところなぜか貧血に関する話題が私の身の回りでシンクロしています。

ここ一年くらい、当サイトで鉄についてはあまり書いてきませんでした。

なぜ鉄についてあまり書かなかったかというと、亜鉛やマグネシウムなど、その他のミネラル・サプリメントに比べ、鉄は扱いが難しいと感じるからです。

鉄はコアな栄養素となるミネラルですが、実際の栄養療法の治療では「鉄サプリは人を選ぶ」という印象です。

こちらでも書いたとおり、鉄サプリは吸収する胃腸側の状態が重要なことを、我が身をもって経験しました。

 

鉄は細菌にとっても重要な栄養分

鉄というミネラルについて考える時、私に大きな気付きを与えてくれたのが、2013年 Frontiersに発表されたこの論文でした。

Shared and distinct mechanisms of iron acquisition by bacterial and fungal pathogens of humans

たいへんボリュームのある論文で1週間くらいかけて読んだ記憶があります。

鉄は人間にとって必要なミネラルですが、「細菌」が生存するためにも必要なミネラルであり、生体内では人間の細胞と細菌との間で、鉄の奪い合いが行われています。

この場合の細菌とは、病原菌、真菌、腸内細菌など菌全般です。

細菌は、シデロホア(siderophore)という鉄のキレート剤を作って、人間から鉄分を奪い取ろうとします。

そこで人間はトランスフェリンやラクトフェリンといったタンパク質で、鉄を細菌から守る術を進化させてきました。

ラクトフェリンは母乳に多く含まれます。

母乳にラクトフェリンが多いという事実は、まだ免疫が不完全な子供の身体を細菌感染から守るために、人間が進化させてきた能力のような気がします。

 

生命の進化の過程から、鉄の存在を考えるのは非常に興味深いです。

地球が誕生した当時、あらゆる生命体が生き残り作戦に必死だったと思います。

人間のご先祖様も細菌も、身近にあった「鉄」という原始的なミネラルに生体反応を手伝ってもらうよう、突然変異を繰り返したと推測されます。ビタミンという有機物に比べれば、ミネラルは無機物で安定しており、地球に豊富ですから。

以降、長い年月をかけて、あらゆる生命体の存続にとって鉄は必要不可欠な存在となります。

 

「鉄は人間という生命体に非常に重要、しかし同時に、細菌にとっても重要。」

ここがポイントです。

人間の身体の中にある、もっとも豊富な細菌は腸内細菌です。

鉄が、良い細菌の栄養になってくれれば良いのですが、どうもそうではないらしい。

鉄を必要とするのは、真菌(カンジダ菌)などの悪い細菌のほうである場合が多い。

吸収する胃腸側が整っていない状態で、必要以上の鉄サプリは、腸内細菌のディスバオイオシスを起こしかねません。

 

これは私自身の経験ですが、1日あたり 12mgのヘム鉄を5〜6錠、60mg以上も摂っていたにも関わらず、フェリチンは微増か、もしくは平行線。全く体調が改善しませんでした。

その後、歯根嚢胞が悪化し、SIBOの症状で胃腸の調子を崩したため、いったん治療方針の見直しを行いました。

 

この経験以降、鉄サプリを摂る場合には、吸収する胃腸側の状態を重視しています。

貧血だからと言って、安易に鉄サプリを増やすのではなく、ピロリ菌の除菌、カンジダ菌対策、胃酸の状態の改善、炎症がないことを確認するなど、事前に対策をしっかり行った上で鉄サプリを摂るほうが治療効果が大きくなります。

いくら鉄サプリを摂っても、改善してこない場合は、良からぬ細菌に横取りされていることも考慮しなければなりません。

「表面の数値だけにとらわれると、根本原因を見逃すことになる」

宮澤先生に教えられた栄養療法の原理原則を思い知らされた経験でした。

低フェリチンの原因を考えなければ意味がない

貧血の指標としてわかりやすいのはHgb(ヘモグロビン)ですが、隠れ貧血の指標として「貯蓄鉄」と言われるフェリチンが使われます。

フェリチンは肝臓、脾臓に貯蔵された鉄分です。

フェリチンは貧血の指標でもありますが、炎症、腫瘍、癌の指標でもあります。

例えば、肝機能やタンパク質の状態を示唆する数値が貧弱なのに、フェリチンだけがいやに高いというのは不自然です。

この場合、炎症など、その他の要因で数値が押し上げられていることを推測します。

その他、普段の食生活やライフスタイルの問診、身体つきや髪の毛、爪、肌の様子などを観察する視診がとても重要になります。

問診、視診、その他の生化学検査の数値をもって、総合的に判断できるのがフェリチン値です。

フェリチン値だけでサプリメントの必要性を判断することはありえません。

総合的に診て、明らかにフェリチンが低い場合は、なぜフェリチンが低いのか?その原因を考えることが重要になります。

鉄サプリの注意点

「経口の鉄サプリでは鉄過剰は起きない」というドクターが多いですが、直接的な鉄過剰の症状は起きなくても、二次的な影響は十分に起こり得ると思います。

消化管のディスバイオーシスはその一例です。

鉄は身体の中で厳重なホメオスタシスが働いています。

鉄サプリメントによって、食品として摂取できる量からは考えられない量の鉄が入ってきた場合、細菌のリスクをヘッジするため、身体は反対に鉄を排除する動きに出るような気がします。

実際に、私の場合、鉄サプリをメガドーズしていた時の方が、Hgb値は上昇するどころか微減でした。

 

鉄は酸素を運ぶだけでなく、あらゆる生体反応の触媒として働いており、鉄不足の症状は多岐に渡ります。

貧血をはじめとする鉄不足が血液データから読み取れる場合、サプリメントで補充するのは簡単ですが、それは根本治療とは言えません。

なぜ不足するのか、原因を推測しながら個々人の応じたアプローチを行うことが重要だと思います。

鉄不足の症状にどうアプローチするのか、具体的な対策例は、また別の機会に改めて書いてみたいと思います。

 

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