アドレナリン代謝に必要な酵素「COMT」
ドーパミン、ノルアドレナリンの代謝の続きです。
ドーパミン、アドレナリン系脳内ホルモンを不活性化させて、排泄するのに必要な酵素を「カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(Catechol-O-Methyltransferase)」、略して「COMT」(読み・コムト)と言います。
COMT酵素は、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンを分解して無効化する酵素です。
COMT酵素を作る遺伝子、これを「COMT遺伝子」と呼びます。
このCOMT遺伝子が、VV型(Val-Val)の人は活性の強い酵素、つまり分解能力の良いCOMT酵素を作れます。
ところが、COMT遺伝子が、VM型(Val-Met)、MM型(Met-Met)の人は、アドレナリンを分解する能力がVV型の人と比べて半分以下になります。
COMT酵素が高速処理型の人は、ドーパミンもアドレナリンも、すみやかに分解、排泄の上手な人なので、どれも過剰になることがありません。
一方、COMT遺伝子が低速処理型の人は、ドーパミン、アドレナリンが過剰になりやすく、これがストレス時の反応や性格の違いとなって現れます。
COMT遺伝子タイプの違いによる特徴
COMT遺伝子の違いに関する調査をまとめてご紹介。
高速COMTタイプは判断力がある
高速COMTを持つ人は、低速COMTの人より判断力に優れているそうです。(2009年)
低速COMTタイプだと「迅速で柔軟に決定する能力」が低下するらしい。
アドレナリンが多くなりやすいので冷静さを欠きやすい、ということでしょうか。
低速COMTタイプは痛みに弱い
高速COMTタイプは、低速COMTの人に比べて痛みを感じにくいそうです。(ミシガン大学・2003年)
COMT val158met genotype affects mu-opioid neurotransmitter responses to a pain stressor
反対に、低速COMTタイプの人は、ストレスや痛みに対する感受性が鋭い、つまり「wimpy」(痛がり、弱虫)なんだそうです。
外国語習得能力があるのは高速COMTタイプ
外国語習得能力に優れているのは、高速COMTだそうです(ワシントン大学・2013)
Brain white matter structure and COMT gene are linked to second-language learning in adults
高速COMTタイプを持つ人は、母国語以外の言語に接すると「白質」と呼ばれる脳の通信ネットワークの強さが順調に強くなっていくのに対し、低速COMTタイプの人は白質の変化が遅いため、外国語習得能力が落ちるのだそう。
低速COMTタイプは記憶力が良い
なんだか低速COMTだと損なことばかりですが、記憶力は、低速COMTタイプの人の方が優れているそうです(ミネソタ大学・2006年)
どうも、高速COMTタイプだと、一定のストレス下にある方が学習能力が上がるらしいのですが、普通の状態だと、低速COMTタイプの人の方が学習能力・記憶力が高い結果となるらしい。
高速COMTは、ドーパミン、アドレナリンの分解が早いため、普通の状態だとアドレナリン不足で頑張る気にならないのでしょうか。ちょっと面白い結果です。
女性のCOMT遺伝子と肝機能「ALT」の関係
女性限定ですが、低速COMTタイプ、つまり遺伝子が多型(Met-Met型)の場合は、肝機能を表す「ALT」の数値が上昇しにくいという特徴があるそうです(2012年)
どんなにビタミンBを摂っても、なかなかALTの値が適正値にならない人がいます。
そのタイプはこれかもしれません。
低速COMTタイプはエストロゲン代謝が悪い
COMT酵素は、女性ホルモンのエストロゲンを分解して無害化、排泄する作用もあります。
低速COMTタイプは、女性ホルモン、エストロゲンを分解する能力が下手なので、体内のエストロゲン濃度が高くなります。
エストロゲンは、セルロプラスミンという銅を抱え込んだたんぱく質を増加させる作用があります。銅はドーパミンからノルアドレナリンへの代謝を加速させます。
銅過剰による女性特有のイライラ、メンタルが不安定になるメカニズムはこちらでも書いたとおりです▼
低速COMTタイプは、別の意味でもアドレナリン濃度が高くなりやすい条件が揃っているということですね。
体内のエストロゲン濃度が高くなりやすいので、乳がんにも注意が必要です。
COMTタイプによる性格の違い・まとめ
他にも、低速COMTタイプの人は、外向性が低く、神経症傾向が高い、他人の意見に流されやすい、という結果が出ているそうです。
COMT遺伝子、まとめてみるとこんな感じです。
COMT遺伝子が多型の人は、アドレナリンを分解して排泄する能力が低いので、体内濃度が高くなりやすく、メンタルも不安定な感じです。
遺伝子多型の割合は、はっきりした調査結果は出ていませんが、米国の大学(留学生が多く多国籍な環境)で学生を調べたところ、COMT遺伝子VV型は43%、VM型は45%、MM型は12%だったそうです。
女性のヒステリー
上記のような特徴から、COMT遺伝子が多型でメンタルが不安定、女性ホルモンが多くてヒステリックなタイプをちょっと妄想してみます。
ふくよかな女性らしい風貌、記憶力があるので、昔行ったデートの場所なんか、しっかり覚えています。ストレスや痛みに敏感で、ちょっと神経質。臨機応変な判断力は苦手なので、突発的なことが起こるとストレスで口喧嘩に発展しやすい。生理前の気分のアップダウンが激しく、旦那さんのちょっとした言動で「ムッキー!!」てな感じでしょうか。
こういった人には、亜鉛、モリブデンで、過剰な銅を押さえ込むこと。
また、COMT酵素による無毒化を速やかに促すこと、これは化学的にはメチル化なので、メチル基が順調に受け渡しされるメチレーション回路の確保。
メチレーション回路に必要な栄養素は、SAMe、ビタミンB6、B12、葉酸、マグネシウムなど。(メチレーションについては難解なので、また別の機会にまとめます)
もちろん無駄にアドレナリンを出さないよう、低糖・高タンパクな食事は絶対条件ですね。
女性のヒステリー治療のためバイブ(いわゆる大人のおもちゃ)を使った医師の物語。実話だそうです。
SEXのオーガズムで得られる「βエンドルフィン」で、手っ取り早く過剰なアドレナリンを調整したのでしょうか。
ちなみに「βエンドルフィン」はいわゆる脳内麻薬、マラソンランナーが得る「ランナーズ・ハイ」の状態は「βエンドルフィン」です。
興奮しやすく衝動的、依存症がある、気分のムラが激しい、こういったタイプはアドレナリンの無効化がうまくない遺伝タイプかもしれません。
このCOMT酵素は、女性ホルモン代謝に関係が深いので、女性のヒステリーといった症状はこの遺伝子多型を疑うのが分子栄養学的アプローチになります。