従来の栄養学では足りてなかったタンパク質
人間の身体は常にたんぱく異化と同化を繰り返しています。
「たんぱく異化」とは、簡単に言えばたんぱく質が分解されてしまうことです。
「たんぱく同化」は、その逆でたんぱく質の合成です。
「たんぱく異化」=「たんぱく同化」であれば、均衡状態なので生体機能は落ちません。
では食物としてどれくらいたんぱく質を摂れば、均衡状態が保たれるのか?
実は、栄養学上の絶対的な結論というのはまだ出ていません。
だって身体の中で起こっていることなんて、基本的にすべて推測ですからね。
従来の古い栄養学では体重1kgあたりのたんぱく質は 0.8g でした。
これは、たんぱく質に含まれる窒素の量と、尿や便で排泄される窒素の量を比較するという方法「窒素出納法」による計測で出た数値です。
ところが、コホート研究(実際の追跡調査)やそのメタ解析(多数の論文を総合して信用性の高い結論を見出す)によると、どうもたんぱく質摂取量が多めのほうが、病気も少ないし、健康状態が良いよね、という結論ばかりが出る。
理論上の数字と実際の結果が合わない。「窒素出納法」って当てになんなくね?となった次第、これが20世紀の栄養学です。
指標アミノ酸酸化法(IAAO法)とは?
21世紀になりまして、窒素出納法の代わりに出てきたのが「指標アミノ酸酸化法(IAAO法)」という計測方法です。
ご存知のとおり、たんぱく質とは多数のアミノ酸の集合体です。
それぞれのアミノ酸が揃って初めて、人間の身体は自分のたんぱく質として合成を開始します。
これはプロテインスコアの桶(オケ)理論と言って、桶の板が揃ってない場合、一番短い板に合わせた量しか、たんぱく質として活用出来ないという仕組み。理系の人だったら「リービッヒの最小律」とか、「ドベネックの桶」とか聞いたことがあるかと。
一番最小のレベルに合わせてしまうので、その他が突出してても無駄になります。
この無駄になったアミノ酸は、身体で燃焼されてエネルギーとして利用されるらしい。
無駄になったアミノ酸が燃焼されて出て行く二酸化炭素の量を計測、排泄される二酸化炭素が最小になれば、たんぱく質摂取量は最適化される、これが「指標アミノ酸酸化法(IAAO法)」です。
必要タンパク質量は加齢で変化しない
この最新の計測方法で高齢者(65歳以上)の1日の必要たんぱく質量を計測したところ、体重1kgあたりおよそ 1.0g以上だったそう。(2016年・カナダ)
これは若年層とほとんど変わらない結果。
こちらのコホート研究でも、サルコペニア(老化で筋肉が減少して身体機能に不具合が生じること)の予防にもっとも効果的な1日のたんぱく質量は、体重1kgあたり 1.0〜1.5 g/kgだったと結論してます。(2015年・テキサス大学)
「高齢だからお肉は控えめに」なんて思っていると、タンパク異化が進んで身体機能が落ちます。
予防医学の観点からも、若い人と同じくらいお肉を食べたほうが良いです。
実際に、体力のあるお年寄りほどお肉食べてる印象です。
83歳の登山家・スキーヤー、三浦雄一郎さん
週に2、3回はお肉、ステーキ500gを食べるそうです。
高齢者は咀嚼や消化力の問題で、動物性のタンパク質を敬遠しがちですが、タンパク質が不足するから咀嚼力も消化力も低下するのであって、卵が先か鶏が先かの話です。
元気な高齢者になろうと思ったら、若い頃と同じ量のお肉を食べる。
食欲自体が減るのであれば、炭水化物のほうを減らして、肉は減らさないこと、これがファイナルアンサーです。