「がん」では死なない「がん患者」栄養障害が寿命を縮める by 東口髙士
amazonのおすすめリストで
上がってきたので、なんとなく
買ってみたらとんでもない良書だった。
最初はKindleで読了。
あまりに感動して新書版も購入。
本当に気に入った本はデジタルではなく
リアルで手元に置いておきたい。
栄養状態がよければ、術後の経過もよく
免疫が強いので感染症にもなりにくい。
つまり健康寿命が長くなる。
誰もが分かるこの理論だけど、意外に
医療の現場ではおざなりになっている
ケースが多い。
著者の東口先生は、栄養サポートチーム
(NST:Nutrition Support Team)を
日本に根付かせた方。
栄養に関心がある外科医というのは
珍しいのですよ。
分子栄養学実践講座の先生たちも
内科医が圧倒的に多い。
「悪いものはぶった切って成敗してやるぜ」
という、テストステロンもりもりの攻撃型
が多いのが外科のドクターってもんですが、
栄養に関心を持つというだけで
このドクターの柔軟性とバランス感覚に
惚れそうになりましたわ。
栄養を考えるに至った東口先生のストーリーにも
感動しましたが、参考になる専門知識の宝庫で
本が付箋だらけになりました。
以下、私の個人的な忘備録(大量。。笑)
・COPD(閉塞性肺疾患)では、代謝されたときに
二酸化炭素の発生量が少ない脂質の割合を多くする。
抗炎症作用のあるオメガ3系が理想。
・ガン患者では嫌気性代謝により乳酸が上昇、
倦怠感の原因になる。
コリサイクルで乳酸がぶどう糖に戻るには
6ATPが必要、乳酸はすみやかに
ピルビン酸に戻すのが理想で
その時に有効なのはクエン酸とBCAA
・外科手術後は、インスリン分泌が増加するが、
インスリン感受性が低下するので血糖値が上昇。
いわゆる「外科的高血糖」の状態。
つまり、糖のエネルギー利用率が下がるので、
タンパク質、脂質をしっかり身体に蓄えて
手術に臨むこと
・腸管機能の回復のため、術後は出来るだけ
早い段階でGFO(グルタミン含有栄養剤)を
入れる。
・栄養を入れるのは可能な限り経腸で。
口から食べられない場合は「胃ろう」
もしくは「腸ろう」を利用。
静脈栄養(点滴)だと腸を使わないので
小腸粘膜の柔毛が萎縮する、
腸管機能を低下させないことが重要。
・小腸粘膜が萎縮すると免疫が低下する
と同時に腸内の細菌が全身の血流に回る状態
(バクテリアトランスロケーション)
になり感染症になりやすくなる。
・がん患者ではエネルギー消費量が増大するが、
最終段階ではエネルギー消費量が落ちる。
・がん患者の最終段階は悪質液である。
細胞が栄養や水分を受け入れられない状態、
それが腹水や胸水、全身のむくみとなる。
・悪質液の状態になると、肝機能や腎機能が
低下しているので、高タンパクではアミン類(毒)
が発生し、脳関門をアミン類が通過、
神経細胞に作用することで食欲不振や
吐き気、意識障害がおこる。つまり、
がん悪質液段階では高栄養が患者に負荷となる。
・炎症があると、たんぱくがエネルギー
として消費されるので、サルコペニアになり
やすくなる
・投与するグルタミンの量は1日あたり約10g
(3gを3回、その他水溶性繊維とオリゴ糖)
・褥瘡(床ずれ)には肉芽の形成を促進して
傷口の修復を早めるために、基本のアミノ酸
プラスアルギニンが効果的
・慢性疾患があると常時サイトカインが作られ
タンパクとエネルギーが不足する状態
「PEM」(Protein energy malnutriton)
たんぱく・エネルギー欠乏症の状態になる
・肝臓の炎症(脂肪肝)、肝臓の繊維化が亢進
すると、グリコーゲンが蓄えられなくなるので、
タンパク、脂質がエネルギーとして使われる。
患者が痩せる、筋肉が落ちるのはPEMの兆候。
・アルブミンの低下回避に夜食は有効。
1日3回よりも、4回に食事を分ける。
寝る前に軽い食事かBCAAを摂取する。
・必要なタンパク質はストレスにより増える。
タンパク質の必要量(g)は「体重 × ストレス係数」
例えば、体重60㎏では健常者が60gのタンパク質
で十分でも、手術による侵襲が身体へのストレス
となるので、その重症度(ストレス)により
タンパク質を 1.1倍~1.2倍と増加させる。
・BCAAは特に重要。
そのなかでも重要なのがロイシン
ロイシンが代謝されて出来るHMBには
タンパク質の崩壊を予防し、合成を促進、
傷を治す効果が強い。
・高齢者が痩せているのはマラスムス(慢性栄養障害)
の状態。マラスムスにクワシオルコ(低たんぱく)
が加わると術後回復が遅れ死亡率が上昇する。
BMI22~24が良い。
・炎症が起こるとアルギニンを代謝して
一酸化窒素が作られる。
一酸化窒素は血管を拡張し血流改善をする。
炎症の初期では、アルギニンを投与し
血流が上がったところで抗酸化剤の
ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEを
投与すると炎症収束が早い。
ただし、酸化の度合いが強いと、
二酸化窒素が逆に酸化剤として働くため、
アルギニン投与は炎症の初期か、
酸化度合いの軽い回復期のみに使う。
医療とは何か?どう生きるべきか?
今年読んだ本の中では、たぶん最高の本。
まだあと半年残ってますが。
専門知識源としてだけじゃなく、随所に光る
東口先生の逸話が泣かせます。ティッシュ必須。
あとがき読むだけでも泣ける。
命とは何か?
医療とはなにか?
私たちはどう生きるべきなのか?
観念的なことではなく、
リアリティを持って考えさえてくれる。
分子栄養学を勉強する人は必読ですね。
一般人もぜひ読んで欲しい至極の一冊です。