AST、ALTの差が5以上あると乳がんのリスクが上昇する?
ちょっと古い話ですが、2016年10月号のミセスという雑誌に、分子栄養学的な血液検査の読み方がちょこっと掲載されておりました。
全6ページにわたって分子栄養学的な数値の読み方の特集でした。
この中の記事にASTとALTの差が大きいと乳がんに注意という記述がありました。
この記事には「なぜ、ASTとALTの差が5以上ひらくと乳がんに注意となるのか??」という理由についてまでは書かれていなかったたので、ちょいと補足します。
AST、ALTの差が5以上で乳がんリスクが上昇する理由
女性ホルモンの代表「エストロゲン」は、お役目を終えると尿として排泄されます。
このとき、エストロゲンを失活させ、水溶性の物質に変えてくれるのが「COMT」という酵素です。
正式名称を「カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(catechol-O-methyltransferase)」というのですが、長ったらしいので「COMT(読み・コムト)」と略します。
ちなみに、COMT の 「T」 はトランスフェラーゼ、つまり「酵素」という意味なので、「COMT酵素」と言ってしまうと「酵素・酵素」と二重の繰り返しになってしまうのですが、素人に説明するのには少しでも分かりやすいほうが良いので、私は便宜上「COMT(コムト)酵素」と言ったりしてます。
エストロゲンは、とても大事なホルモンですが、多すぎれば悪さしかせず、乳がん、子宮がんなど、女性ホルモン由来の発がん物質となります。
なので、お役目を終えたエストロゲンはCOMT酵素の作用で、速やかに排泄されなければなりません。
酵素が働くためには補酵素が必要です。
COMTは、ビタミンB6を補酵素とします。
ですので、ビタミンB6が不足するとCOMT酵素の活性が低下するのです。
ビタミンB6を反映するAST/ALT
ビタミンB6不足を診るのに、一番適した指標がAST/ALTです。
AST/ALTも酵素で、COMTとおなじようにビタミンB6を補酵素としています。
分子栄養学的には、ALTのほうがビタミンB6不足によってより大きく数値が変動しやすいという特徴を利用して、ビタミンB6不足を判断します。
ALTはASTに比べて寿命が長いので、補酵素不足でより大きく減少しやすいのです。
つまり、
ALTがASTに比較して減少している(数値のひらきが大きい)
→ おそらくビタミンB6不足である
→ 同じようにビタミンB6を補酵素とするCOMT酵素も活性が悪くなっているはず
→ 体内のエストロゲン濃度が高くなりやすい状況である
→ 女性ホルモン由来のがん(乳がん・子宮がん)に注意が必要である
という推測が成り立つわけです。
COMT酵素についてはこちらにも書きましたのでご参考ください▼
【COMT遺伝子】ヒステリー体質は乳がんに注意 | ビタミンアカデミー
このミセスに掲載の記事は「AST/ALTの差が5以上開いている、且つ、ALTの数値が10以下の場合は乳がん検査を」と書いてあります。
ALTが10以下というのは相当な低たんぱく状態です。
肝機能の活性がかなり低下していることが推測されますから、解毒力も低下しており、発がん物質にも弱いことが推測されますね。
検査数値を読む場合の注意点
『ASTとALTの差が5以上開いて、ALTが10以下であれば乳がんに注意』
具体的な例を挙げます。
『AST 16、ALT 9』というデータだった場合。
これは、かなり身体が低たんぱくでビタミンB6不足であるということを意味しています。
実に簡単ですね。
ところが、実際のデータの読みはそうそう簡単ではないことの方が多いです。
ALTは確かにビタミンB6不足で低下しますが、脂肪肝で上昇します。
例えば、お食事内容を問診して「朝はパンとコーヒーだけ、お昼はペペロンチーノ、夜のは飲み会でおつまみを少々」と言った方の場合。
お食事にタンパク質が少なく炭水化物が多すぎから、非アルコール性脂肪肝を疑います。
脂肪肝とは肝臓の炎症ですからALTの上昇要因です。
コリンエステラーゼやALPなど他の数値もみて、脂肪肝がありそうな気配を確認します。
「AST/ALTの差が5以内、やったー、乳がんのリスクは少ないぞ~」というのは早計です。
もしALTが炎症で上昇していれば、見せかけの数値は正常に見えますから。
さらに問診を進めて、寝つきが悪い、途中覚醒がある(←セロトニン低下)の症状があったり、
やる気がない、イライラする(←ドーパミン低下、ノルアドレナリン上昇)という症状がある場合、
脂肪肝による数値のマスキングがある可能性が高く、AST/ALTが開いてなくても、ビタミンB6不足が疑われます。
理由は、ビタミンB6はセロトニン、ドーパミン生成にも必要で、COMTはノルアドレナリンの代謝も行っているからです。
ドーパミン、セロトニンの生成にビタミンB6が必要なことはこちらで書きましたのでご参考ください▼
【うつ病・パニック障害】ビタミンB6不足が疑われる脳の状態とは? | ビタミンアカデミー
AST/ALTの値と乳がん・まとめ
AST/ALTの値は、必ず確認する数値です。
どんな健康診断、診察でも必ず計測するデータですし、その方の食生活、ライフスタイル、体質を反映しやすいデータです。
AST/ALTの値は、乳がんに限ったことではなく、いろいろな症状の判断・推測を可能にします。
AST/ALTの値とお食事内容が分かれば、お悩みの症状について1時間くらいお話できます。笑
冒頭の雑誌の記事については「えー!たったこんだけ~!もっと詳しく説明しろよー!」と思ってしまいました。
しかし、一般の読者を対象にするとこれが限界なのでしょうね。